[PR]当たる!無料占いで仕事鑑定:大人気!無料占い『スピリチュアルの館』

HOME 投稿 記事検索 過去ログ 管理用


サクッ!と猟奇歌


猟奇歌は夢野久作作品の種子とも言うべき闇の詩である。
アナタの闇の猟奇歌をお聞かせクダサイ。

〔旧掲示板ログ 1 2 3 4 5

定期的に投稿してくださる小田牧央さんの作品は、
氏の『鉄錆風味歪夢』にて、より纏まった形で閲覧できます。



桜雨の夜
投稿者: 小田牧央 投稿日: 2008/04/29(Tue) 16:01 [No.31]



 春が近付くたび、僕は花粉に悩まされる。抗アレルギー剤を処方してもらえば喉の痛みやくしゃみはおさまるのだけど、気怠さや軽い頭痛だけはどうしようもない。夕方になると必ず六度九分とか微熱とも呼べないくらいの熱がでて、僕はなにをする気にもなれずぐったりとしてしまう。
 気が弱っているときは、ちょっとした変化が身に応える。近所の銭湯がつぶれてマンションになったり、隣家の主人が倒れて真夜中に救急車が駆けつけたり。自分の身に起きた不幸ではないのになぜか気持ちを落ち込ませる。なにもかも移り変わり、ひとつとして同じままではいられない。そんな当たり前のことがどうしようもなくつらくて目を背けたい気持ちになってしまう。
 昼近くまで惰眠をむさぼった休日は夜に寝つけず、しかたなく散歩にでかけることがある。いつもより神経が研ぎ澄まされて、なんでもないようなことが不気味に思えたり美しく感じられたりする。外灯の下を歩くたび自分の影がアスファルトの上に伸びてはまた短くなるのを気味悪く感じたり、電柱を支える斜めのケーブルに枯れた蔓が巻きついているのを光の加減で鋼鉄の花に見間違えたりする。誰もいない深夜の路地で目を細めて歩くとなにもかもが暗がりに沈み込んで、見慣れているはずの町が得体の知れない印象に様変わりする。
 暗がりに沈んだ路地を歩きながら、弟のことを考える。僕に弟なんて本当はいないけれど、いるつもりで空想の物語を考える。両親の死をきっかけに弟は心の病にかかり、ある日を境に明日を失ってしまった。まったく同じ一日を心の中でずっと繰り返すようになってしまった。毎朝同じ新聞を読み、同じ献立の朝食をとり、いつも同じ小説の同じページを読んでいる。外出しても季節の移り変わりを感じることはなく、冬の公園で葉を散らしつくした木を見上げて兄さんもうすぐ桜が咲くねと僕に告げる。焦点の合わない黒い瞳は存在しないつぼみをみつめている。はちきれそうなほどに膨らんだそれはたとえ雪の日でも桃色に色づいて春の訪れを待っている。
 そんな弟のために僕は朝になると新聞受けに昨日と同じ新聞を入れる。昨日と同じ献立の朝食をつくり同じ小説を同じ位置に戻しておく。雨の日には傘を差してやらなければいけない。なぜなら弟には雨など見えていないし濡れても冷たさを感じることなど無いのだから、僕が代わりに傘を差してやらなければずぶ濡れになってしまう。兄さん、もうすぐ桜が咲くね。僕は深夜の公園で満開の桜を見上げてうなずく。うん、もうすぐだ。
 よく晴れた穏やかな昼下がり、水色の雨傘を差して散歩にでかける。僕の頭の中ではいかにも春らしい弱々しげな雨がアスファルトを濡らしている。それは昨夜の雨がまだ乾いていないだけだと知っていても水色の傘を打つ柔らかな雨音が聞こえる。今日はいつもより花粉がひどくて鼻が少しぐずつく。くすんくすんと鼻をならし涙をにじませながら温かな陽気に春が近付いているんだなと思う。頭の奥がじんじんして背中が汗ばんで身体中がむずむずする。ときどきひどい寒気が襲ってきて青空を見上げながら僕は口笛を吹きたい衝動をこらえる。お昼ご飯はどこで食べようとか家に帰ったらなにをしようとか考えようとするのだけど、集中力が続かなくてまとまった結論はなにひとつとしてでてこない。
 だんだん気が滅入ってきて暗い気持ちでうつむいて隣を歩く弟に傘をさしてやりながら公園に足を踏み入れると足下に白い雪のような欠片が舞い落ちてくる。濡れたアスファルトに貼りついたそれは空想の雨粒を身にまとい木漏れ日をまばゆく反射する。
 見上げると雨の中、桜が散っている。息をするだけで喉を詰まらせるほどたくさんの花びらが、雨粒のように速く次々と地面へと落ちていく。水色の傘を傾けると降り積もった花びらがさらさらと落ちていった。花びらの水たまりが水色の空を映している。薄く雲のかかった水色の空の下で空想上の弟はふくらんだつぼみを見上げ兄さん、もうすぐ桜がと言いかけて言葉を失う。もうすぐ春だなあと思う。もう少ししたら、春なんだなあと思う。きっと春が来たら花粉が無くなって僕は元気になれるのだけど、いまは花粉のせいですごく目がかゆい。傘を落として瞼をこすり冷たい雨に打たれながら寒気に震える。うずくまり背中を丸め力いっぱい瞼を掻きむしって涙を流すのを、立ち尽くす弟が心配そうに見下ろしている。
 早く夜が来ればいいのに。夜が来れば、瞼を細めるだけでなにもかも暗闇に沈んで見えなくなるのに。けれどいまはどんなに瞼を強く閉じてもなにもかもがまばゆく輝いて、消えてはくれない。青空の下、雪のように降る花びらを浴びながら僕はひそやかに弟をねたむ。

考えてはいけない
投稿者: 小田牧央 投稿日: 2008/03/30(Sun) 14:26 [No.30]



 ガード下の駅出口から横断歩道を渡って商店街の通りを奥へ奥へ、理髪店の手前で角を折れてズンズン進んだ先にブルーシートが年中かかってる廃屋があるから電柱を数えてごらん。三本目の電柱からオレンジ色の皮膜線が路地の奥へ延びているから、その先にあるアパートの二階が僕の部屋だ。
 そんなふうに電話で教えられたのは二ヶ月前でした。私は今日も電柱を数えて神様のもとへと参ります。オレンジ色の皮膜線が薄暗い路地の奥へと延びた先、黄色と黒の縞模様が並んでいます。工事中、立入禁止、安全第一、さまざまな文字の並ぶ看板や案内をよけたりくぐったり飛び越したり、年中絶えたことのない水溜まりを慎重に迂回して赤錆びた階段を上がるのです。胸元まである大きなガラスの水槽が廊下の突き当たりで埃を被り、その中には二匹の黒猫が水の入ったペットボトルと一緒に暮らしています。
 コン、コン。玄関ドアをノックすると中から神様が柔らかく返事をします。おはいり、その言葉が耳たぶをくすぐるのにとろんとなりながらドアを開いて中に入ります。薄暗い室内には壁際に流しがあって真ん中には歯医者さんみたいな黒椅子があって壁にはいくつもの観葉植物の鉢が雛祭りの雛壇みたいに並んでいます。いちばん上の段には丸い金魚鉢があって赤いヒラヒラが左右にゆっくり舞っています。昼下がりの陽光がガラス鉢を通過して金魚達は赤いセロファンみたいに透き通っているのです。
(血と涙)
 振り返る神様は黒いロングコート姿で首に青いマフラーをぐるぐる巻いています。二つの窓が開け放たれて薄いカーテンが風にふかれて揺れています。窓からの陽射しに神様の顔は逆光に翳っています。
(どちらが海の水に近いかな?)
 心の中で私は答えます。それはもちろん涙でしょう、だってどちらも透明で塩辛いですもの。神様は微笑みながら、では始めましょうと椅子を示します。カン、カン、カン。踏切の音が聞こえてきました。アパートの真下に線路があるのです。にぎやかな雑踏が一斉におしゃべりを始めました。ぺちゃりくちゃり、ぺちゃらくちゃらとざわめいています。
 革をきしませながら黒椅子に身を沈めます。身を沈めて安堵しながら視界が翳っていくのを感じます。力強く光を放っていたはずの窓は勢いを失い、観葉植物の緑は枯れたように色褪せていきます。神様の不思議な力で私は視力を一時的に失ってしまうのです。視界が次第に赤くなって、セメントの床が血の海のように赤黒くなっていきます。さあ、今日はこれをどうぞ。掌に渡されたのは冷たい感触。ニスを塗った木製のハンドルでした。ぐるぐる回してごらん、なにも考えないようにして。
 列車の振動に革椅子の背が揺れています。黄色と黒の縞模様が窓の下で人々を押しとどめています。騒ぎだしたカラス達が鳴いています。私は一生懸命ハンドルを回します。それはなんの手応えもなく軽々と回ります。いつも通りなにも考えないようにしながら回します。神様が靴音を立てながら椅子から遠ざかっていきます。列車が遠ざかっていくと踏切の警告音が大きくなっていきます。カン、カン、カン。一斉に歩きだした人々が踏切を渡っていくでしょう。遠ざかっていくざわめきが細切れになって散っていくことでしょう。
 初めてここに来たとき黒椅子に座る私が手渡されたのは丸めたティッシュでした。なんの変哲もない白いティッシュを渡され困惑する私に神様は握りしめてごらんとおっしゃいました。いっぺんにじゃなくて、少しずつ時間をかけてね。神様の暖かい二つの手の平が私の右手を包んで、地べたを這う蟻のようにゆっくりと指を曲げていきました。
(いいかい、このことについて)
 少しずつ、少しずつ四本の指がティッシュの固まりを押し潰して、それとともに私の視界は暗くなっていきました。互いの静かな息の音に耳を傾けながら寒さに身を震わせ、頭の中に砂が詰まったようになりました。ある瞬間、かすかな音がしました。卵の殻を割るような音。同時にパッと周囲が明るくなりました。
(考えてはいけない)
 数時間かけて握りしめたティッシュを神様は微笑みながら窓から外に投げ捨てました。次のときに渡されたのは黒いビニール袋でした。神様はそれに腐りかけた人参を入れました。ビニール袋を丸めて私に手渡し、これをよく揉んでごらんと言いました。形が無くなるまで潰してごらん、なにも考えずに。
(カン、カン、カン)
 列車の振動が近付いてきます。踏切の赤いランプが瞼の裏側で点滅します。腐った人参が指先で潰れてゆく心地よさに、私は次第に暗くなってゆく部屋のなかで多幸感に包まれていました。神様は口笛を吹いていました。聞き覚えのある童謡を途切れ途切れに奏でながら神様は私の肩を撫でていました。物悲しい旋律にいつしか心が震え、温かな涙が頬を滑り落ちていきました。
(このことについて)
 帰りがけ、観葉植物が並ぶ雛壇に目を向けました。ガラス鉢から金魚が一匹、いなくなっていました。
(考えてはいけない)
 指先に固いものを感じました。人参の軟骨、人参の眼球。水槽の中で猫が悩ましい鳴き声をあげています。グルグル、グルグル。私は一心不乱にハンドルを回します。コツコツ、コツコツ、神様の靴音が響きます。カチカチ、カチカチ、なにかの機械音が響きました。歯車が噛み合うようなプラスチックが割れるような不思議な音。カチカチ、コツコツ、グルグル、パン。
(カン、カン、カン)
 パッと視覚が明るくなりました。けれどそれは真昼のような明るさには戻らず、暮れなずむ夕暮れのような暗さにしかなりませんでした。表から夕暮れの雑踏が響いてきました。カラスが二羽、窓枠にとまり部屋の中をうかがっています。私の手元からハンドルが滑り落ち、床に落ちて大きな音をたてました。二羽のカラスが同時に嬌声をあげ、漆黒の翼を振り上げるとオレンジ色の空へ飛び立ちました。
 私の視力は未だ回復していないのでしょうか、床が一面、赤黒く見えます。床に転がるハンドルから、麻紐が延びていました。ハンドルを回したことでそれは荒縄のように捩られ、いくつもの瘤ができていました。部屋の奥に目を向けると、奇怪な固まりがありました。針金、スピーカー、鳥の骸骨、プラスチック人形。さまざまな事物が組み合わされ寄生生物のように壁面を覆い天井まで積み上げられているのです。
 奇妙な固まりの天井近く、ピストルが固定されていました。銃口を下向きに、部屋の隅に向けています。ハンドルから延びた麻紐を目で追うと、肋骨のように張り巡らされた針金をつたってピストルの引き金に絡まっていました。
(血と涙)
 つん、と鼻腔を潮の香りが突きました。私の視力は未だ回復していないのでしょうか、床が一面、血の海のように赤黒く見えます。踏切前で大騒ぎする人々の声が聞こえてきます。幼い子供達が声をそろえて叫んでいます。かみごろし、かみごろしと叫んでいます。
(どちらが海の水に近いかな?)
 列車の振動が革椅子の背を揺らします。遠くでカラス達が鳴いています。考えてはいけない。なにも考えてはいけない。このことについてなにも考えてはいけない。夕闇に沈み込んでいく部屋の中、海を思わせる潮の香りにくらくらとなりながら、私はゆっくり手足の力を抜きながら昔日の家族旅行を思い返していました。

習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/03/25(Tue) 00:31 [No.29]


夜通し呑んだはずなのに、隣の男は死んでいた。
どおりで酔わないわけだ。
習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/03/25(Tue) 00:23 [No.28]


父が寝床にくるから、
剃刀を忍ばせておこう。
紅い唇。
習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/03/25(Tue) 00:21 [No.27]


肥えきった我が腹をつまみみて、
乳房を失くした彼女を想う。
無人音楽会
投稿者: 小田牧央 投稿日: 2008/02/23(Sat) 15:22 [No.26]



 犬に襲われた、のだと思う。夜の繁華街を千鳥足で歩いていた。不意に、背後から熱い息を吹きかけられた。ベロリと耳の後ろを舐められると同時に、重いものがのしかかってきて固い爪先がタン、タンと背中を二回叩いた。爆発するような凄まじい吠え声が轟いた。
 ざわめきが消えた。酔いのせいで私はバランスを崩し、アスファルトに横転した。飲み屋の電飾看板がチカチカ点滅している。足首に激痛が走った。転んだせいではなく、噛みつかれたからだった。何度も蹴り払い、やっとそれは離れた。身を捻り振り返ると、襲撃者は私に覆い被さろうとしていた。逆光にそれは黒い固まりとしか判別できず、牙だけが闇に浮かんでいた。白い牙は血に濡れていた。私の血だ。そう思った瞬間、恐怖がこみあげた。
 起きあがり、走った。地下鉄駅への入口があり、一瞬の判断でそちらへ向かった。階段を駆け下りる。鞄を置き去りにしてしまったことに気付いた。しかし戻るわけにもいかない。人気のない通路を走った。後ろからタタッと足音が聞こえた。足首がジンジンと痛む。冷たい空気を吸い込むたび、肺が悲鳴をあげた。
 アッと思った瞬間には足下から地面が消えていた。コンクリートの長い階段を転げ落ちる。全身を激しく打ちつけ、いくつもの光点が群れた蜂のように跳ね回った。いちばん下までたどりつき勢いが止まると、激痛が襲ってきた。立ち上がることもできず、それでもなんとか這いずった。壁際のほうへ身を寄せ、そのまま意識を失った。
 ゴウンゴウンという音で、目を覚ました。工場のような機械音。うっすらと瞼を開けると、無限回転するグリーンのベルトがあった。エスカレータだ。ゴウンゴウン、ゴウンゴウン。誰も下りてくる気配は無いのに、いつまでも動き続ける。溝の刻まれたステップが下りてきては、次々と地面の下へ飲み込まれていく。
 いまは何時だろう。深夜だろうか、早朝だろうか。あれからどれくらい経ったのだろう。私は軽く身体を丸めた姿勢で横向きに倒れていた。立ち上がってみるどころか、指一本動かす気にはなれなかった。硬直したまま、ただ薄暗い通路を見ていた。壁にポスターがある以外、見渡す限りコンクリートしかない。奥のほうは地下鉄駅の改札なのだろう、切符売り場らしきものが小さく見えた。エスカレータは三階分くらいの長さがある。天井がとても高い。あんなところから転がり落ちて、よく無事だったものだ。
 ぼんやりしていた。ゴウンゴウンという音に耳を傾けていた。エスカレータはこんな音をたてるのかと、意外に思った。何者かに襲われた恐怖は不思議に消え失せていた。落としてきた鞄や怪我のことを心配する気持ちも無く、まるでクラシックコンサートのように耳を傾けていた。暗い地下通路、無限軌道のつぶやき。ここではこんなにも孤独な音楽会が、毎夜続いているのか。
 耳鳴りに気付いた。キーンという高音。いったいどこで鳴っているのだろう。身体の内側には違いない。けれどもそれは具体的にどこなのだろう。耳の奥なのか、それとも脳が創り上げた幻なのか。こんなにもハッキリと聞こえるのに、どこで鳴っているのかだけがわからない。
 私は意識を緩めた。眠りにつくときのように、なにかを理解し考えようとする自分を手放し、瞼を細めて音に身をゆだねた。かすかなリズムが聞こえてきた。心臓だ。トクトクと穏やかな心臓の鼓動が聞こえる。しかしその背後、違うリズムがある。カツカツ、コンコン。いくつもの異なる拍子が重ね合う。どこか遠くからそれは近付いてくる。私は瞼を開いた。
 エスカレータを、革靴が下りてきた。左右の革靴がめまぐるしくステップを踏んで駆け下りてくる。あるべき人間の姿が無かった。透明人間のように細身の革靴だけが、エスカレータを降りると目の前を通り過ぎた。磨いたばかりのように革が鈍く光り、土汚れどころか埃ひとつ無かった。
 カツン、と音がした。エスカレータの最上段、黒いブーツがあった。急ぎ足でステップを下りてくる。ゴッゴッと低い足音をたてている。続けて白いハイヒールが、踵のつぶれたシューズが現れた。カツカツ、コンコン、パタパタパタ……まるで波のようにあらゆる種類の靴が押し寄せてくる。エスカレータを、その脇の階段を、通路を、奔流となって無人の靴達が通り過ぎていく。地下の空間いっぱいにさまざまなリズムの靴音が響いた。
 怖くはなかった。私は陶酔していた。なにも考えず、音の連なりに身を任せた。ゆらめいていた。耳鳴りは消え、代わりに心臓の鼓動が強く聞こえた。トクントクン。少しずつテンポをあげながら無数の靴音と絡まっていく。近くを通る靴音はハッキリと、遠くの靴音はつぶやきのように。いくつもの音が立体的に絡み合いながら流れていく。まるで川を流れる水のようにそれは絶えず変化し、いくつもの小さな振る舞いや何気ない変化に心が震え私は暖かな多幸感に包まれた。
 ゆっくり、それは弱まっていった。靴の数がまばらになり、ざわめきからメロディが失われた。ぼんやりとした、悲しみだけが残された。うつろな悲しみが沁みて、私は無感動に目前の光景を眺めていた。小さな幼児靴が飛び跳ねていくのを最後に、静けさが戻った。ただエスカレータのゴウンゴウンという音だけが空っぽの地下に響いた。ゆっくり瞼を閉じると、トクトクという音だけが聞こえた。
 ざわめきがした。パッと目を開く。人の波があった。エスカレータを下り地下鉄駅へ向かう人の列。スーツ姿の女性が、口元に手をあてながら私のほうを何度も振り返っている。
 どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。私は身を起こそうとした。同時に、全身を激しい痛みが襲った。足元を見る。水たまりがあった。黒い水たまり。トクントクンと音がしている。トクントクン、足首から血が流れる音。靴が無い。血に染まった靴下だけが残されている。トクントクン、駆け寄ってくる駅員の姿が視界の隅に映った。トクトク、トクトク、トクトクトク……。
 朝が来ていた。通勤時間の地下通路は喧噪に包まれていた。今頃、私の靴は電車に乗っているのだろうか。駅員に肩を揺らされながら、ぼんやりそんなことを思った。

習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/01/23(Wed) 01:47 [No.25]


蜜柑の皮を、ふと荒々しくむいてみる。
人間の頭の中もこんなにみずみずしいものなのか。
習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/01/23(Wed) 01:47 [No.24]


蜜柑の皮を、ふと荒々しく剝いてみる。
人間の頭の中もこんなにみずみずしいものなのか。
習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/01/23(Wed) 00:49 [No.23]


列車に向かっておじぎをしたら、首が飛んだ。
ある律儀な男の話。
習作
投稿者: 椿 投稿日: 2008/01/23(Wed) 00:40 [No.22]


独りで死ぬのは寂しいから、
そっと腹を撫でさする、産婦人科の夜。

記事No 削除キー

- SunBoard -
edit: カスタムCGI *yuki-web*茉莉

[PR]女性が輝く公文の先生募集中!:全国で教室開設説明会開催